中皮腫患者へのケア

 中皮腫の特徴は、治らない、進行が速い、情報が少ない、石綿被害によっておこることです。このような特性を持つ中皮腫という病気をもった患者さんが、どんな問題をもっているかを理解することが重要です。
身体、こころ、生活面から見てみましょう。

身体

 中皮腫による症状:胸水貯留による呼吸困難で受診する患者さんが多い一方で無症状のまま健康診断で発見される人もいます。胸膜中皮腫の痛みは、胸部の持続的な痛みです。症状が進むと寝汗、食欲低下、呼吸困難、全身倦怠感などが起こります。腹膜に転移すると腹水貯留や腸閉そく等を起こします。その他、まれですが、胸水穿刺部位からの腫瘤、大量胸水などが起こることもあります。
治療による不快な症状:胸膜肺全摘術後の痛みは肺がんの肺切除術や肺摘出術より侵襲が大きく、痛みと循環動態のコントロールが課題です。術後も労作時の動悸や呼吸困難、低気圧通過の体調悪化などにより、日常生活動作に支障がでます。化学療法の副作用は他のがんと大きく変わりません。

こころ

治らない病を得た苦しみ

 完治が難しく、予後の短い病気を宣告された患者と家族は、ショックを受け絶望します。仕事や工場周囲で石綿に曝露した患者さんの中には、中皮腫による同僚や近隣住民の死を経験して、永年発症を恐れた末に心配が現実となる辛い宣告となります。ほとんどの患者さんが、不眠、抑うつなどの症状を経験します。ほぼ同時に、少ない情報と限られた選択肢の中で患者さんは治療選択をしなくてはなりません。治りたい一心で治療を行いますが、治療が一段落しても、絶えず再発や増悪の恐怖が付き纏います。治療終了後からあまり時をおかずに再発や増悪する場合は、患者と家族の気持ちが病状についていかないこともあります。そのために退院、外泊、積極的治療から緩和ケアへの移行などの意思決定に気持ちが向かず、機会を逃してしまうこともあります。また、完治が難しいと宣告された上で、少ないチャンスに賭けて治療に取り組んだ患者でも、病状の悪化を受け入れるのは困難なことです。「他の治療法・病院にすればよかったのか?」という気持ちに悩む方もかなりおられます。全ての経過において、中皮腫の患者さんは、絶望的な予測と治りたいという気持ちの狭間で常に揺れるのです。

適性な情報の不足

 中皮腫についての患者向け情報が少なく、適性な情報が得にくい状況があります。治りたいがゆえにインターネット等から得た情報をもとに科学的根拠のないがん治療を試し続ける方もいます。病院あたりの中皮腫患者数が少ないため、患者同士で情報交換や共感する機会も少なく、他の患者さんに会いたいと思う方もいます。

石綿で病気になった苦しみ

 患者さんの多くが、職業による石綿曝露歴があります。地域によっては、近隣の石綿工場飛散した石綿によって発症した患者さんもいらっしゃいます。いずれにせよ、石綿を早期に規制しなかった国や、石綿飛散予防を十分に行わなかった会社への怒りや無念感を持つ方もおられます。一方で、石綿によって病気になったこ都に複雑な感情をもち、「石綿については触れられたくない」「他の患者さんには会いたくない」と思う方もいます。

困難が重積する胸膜中皮腫

 胸膜中皮腫は進行が速いので、ひとつひとつの問題が解決する前にどんどん症状が進み、前の問題が未解決のまま新たな問題が発生してしまいます。そのため、患者と家族は様々な課題や問題に追い立てられて身動きができなくなってしまうのです。ある患者さんは受診からターミナル期までを振り返って「まるで、速い電車に無理やり乗せられたようだった」と表現しました。このような状況に陥ると、患者も家族も治療に専念したり、よい意思決定を行うことが難しくなります。看護師は、進行の速さに気持ちが付いていかない患者と家族の将来の問題を予測して、タイミングを逃さずにケアを提供することが重要です。

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