HOME > 患者様とご家族へ

患者さんのからだとこころ

 中皮腫と診断された患者さんは、なぜ自分はこのような病気になったのかと驚き、動揺し、治療法が少ないことや、病気が治りにくいことにショックを受けます。中皮腫は比較的珍しい病気なので、医師でさえこの病気についてよく知らない場合があります。「どの病院にいったら、どんな治療を受けられるのか?」、「どんな治療を受けるのがよいのか?」、「早く治療をしたいのに、病院が見つからない。」など、少しでも早く中皮腫を治したいのに、うまくいかないことがあるかもしれません。それだけでなく、治療や生活にかかる費用も心配ですし、ご家族や仕事のことも気がかりです。患者さんには、解決したり、決めなくてはならないことがたくさんあるのです。これらのことを、一人で全部背負うのは心細く、困難です。お一人で抱え込まず、医療サービス、社会保障制度、支援策、NGO支援団体や患者会の支援などを上手に利用して、ひとつひとつ解決していきましょう。

からだのこと

 診断されたばかりの方の中には、症状がほとんどない方もおられます。症状のないときは、お仕事や毎日の生活を楽しく充実して送ってください。中皮腫という病気になったからといって、してはいけないことは特にありません。今まで通りの生活を送ることができます。
ただし、どこかが痛い、苦しいなどの症状が出始めたら、すぐに医師に相談してください。中皮腫の進行の速さは人さまざまですが、進行すれば必ず症状が現れます。胸の痛み、そのほかに、手術の後遺症による痛みや息切れ、化学療法の副作用による吐き気やだるさなど、治療による症状も起こるかもしれません。大事なことは、体の訴える症状を我慢せず、すぐに治療を受けることです。症状をコントロールするための治療を「緩和ケア」と呼びます。緩和ケアは、症状がでてから早く始めるほど、少ない薬の量で効果的に症状をコントロールすることができます。中皮腫の主治医に相談して、症状が出た時のために、緩和ケアを受けられる病院や医師を探してもらいましょう。胸膜中皮腫の場合、胸部外科、呼吸器内科・外科などの医師が治療を行うことが多いと思いますが、これらの医師は中皮腫を治療するのが専門です。緩和ケアは、患者さん一人ひとりの症状をコントロールするための治療を行うので、専門が違います。中皮腫の主治医の他に、緩和ケアの主治医を持つことをお勧めします。なお、「緩和ケアは、治療する手立てがなく、亡くなる人のための治療」と思う人がいますが、これは誤解です。緩和ケアは、患者さんが、毎日を生き生きと、心地よく過ごすための治療です。痛みや苦しみを我慢しても、中皮腫は治りません。むしろ、緩和ケアをうまく使うことで、痛みや苦しみによって体を消耗させることなく、中皮腫と戦う体力を温存しましょう。 

こころのこと

 中皮腫と診断された患者さんは、これからの治療はどうしたらいいのかと途方にくれたり、自分はどうなってしまうのだろうというとらえどころのない不安、ご家族にどう話そうかという悩み、いつも死を意識させられる苦悩、アスベストという有害物質で病気になった無念感など、悲しく、辛い気持ちを経験します。眠れなくなったり、鬱のような症状を経験する人もたくさんいます。これは、病気によって辛い思いをしたことによる正常な反応です。しかし、不眠や心の辛さを我慢しても、心にも体にもよくありません。中皮腫という困難な病気と闘うためには、気力と体力が必要です。不眠や鬱の症状が出た時は、医師に相談して、お薬を出してもらったり、カウンセリングを受けるなどして、心を守りましょう。また、アスベストによって病気になったことに対する怒りや無念感については、中皮腫の患者さんやご家族と気持ちを分かち合うことで、苦しみが軽減し、闘病生活を送る勇気を得ることができます。

ご家族への支援の必要性

 中皮腫患者さんにとって、一緒に闘病生活を歩んでくださるご家族の存在は何よりも心強いものです。しかし、多くの悪性疾患がそうであるように、患者さんのご家族は、様々な困難を経験されます。しかしなかでも中皮腫は、患者さんのご家族にとって辛い病気です。中皮腫を完全に治すことは非常に難しく、患者さんの余命が短いうえに、情報が氾濫していて治療選択が難しいのです。患者さんが辛ければ辛いだけ、ご家族も苦しみます。そして何よりもご家族を苦しめるのは、中皮腫がアスベストという有害物質でおこったということです。自分の過失ではなく、有害だと知らされずに吸ったアスベストで家族を病気にさせられるということは、耐えがたい苦しみです。しかし残念ながら、この無念感は、ほかの人にはなかなか理解してもらいにくいのが現状です。眠れなくなった時や辛い気持ちを抱えきれなくなった時は、心療内科や精神科で辛い気持ちを聞いてもらい、必要な薬を処方してもらいましょう。辛い時には専門家の力を借りることも、困難を乗り切る方法のひとつです。また、患者会などを利用して、同じ病気の患者さんやご家族と想いを分かち合いことは、患者さんのご家族にとって大きな助けとなります。また、患者さんの闘病についてご家族が困難を抱えすぎた場合は、中皮腫患者とご家族を支援するNGOの支援を求めることもいいと思います。特に、労災申請や救済申請はご家族が手続きすることが多いと思いますが、ご家族にとっては負担が大きい場合がありますので、申請を援助してくれるNGOの支援を受けましょう。労災や救済の制度は、経済的支援だけでなく、患者さんとご家族が受けた困難への補償も目的としていますので、ぜひ申請しましょう。

ご遺族への支援の必要性

 患者さんが亡くなったあとも、患者さんが中皮腫で亡くなったことに無念の気持ちを抱き続けるご家族もいます。アスベストという有害物質で大切な家族を失うという経験から立ち直るのは容易ではないのです。アスベストに関する社会の理解やケアの充実が求められます。患者会はご遺族も支援を受けることができますし、ご遺族がご自分の経験を生かして、患者さんとご家族を支援する場にもなっています。ぜひ、利用してください。

療養手帳

療養手帳療養手帳.pdf
岡山労災病院 藤本伸一先生の研究班で開発しました。患者さんとご家族が病気の経過や日々の疑問などを自由に記入できる手帳です。こちらからダウンロードしてぜひご活用ください。使用の許諾は必要ありません。

HOME > 患者様とご家族へ